対話型鑑賞とは
対話型鑑賞という言葉を聞いたことがあるでしょうか。美術館でも対話型鑑賞ワークショップを開催しているところが最近多いように感じます。対話型鑑賞とは1980年代半ばに、アメリカのニューヨーク近代美術館で子供向けに開発され、子供の思考能力、対話能力の向上を目的に実践される対話による美術作品の鑑賞法のこと。
英語ではVTS(Visual Thinking Strategies : ビジュアル・シンキング・ストラテジー)と呼ばれている。「視覚を用いて考えるためのカリキュラム」(The Visual Thinking Carriculum)とも。日本でも2000年前後から教育普及プログラムの一環として各美術館で行われたり、学校教育の現場などで取り入れられ、広く知られるようになったそうだ。
対話型鑑賞の特徴
対話型鑑賞が従来の美術鑑賞と異なる点は、作品の意味や技法、作者に関することなど、美術作品を専門家による研究対象としてのみ捉えることを否定し、作品の解釈や知識を鑑賞者に一方的に提供するような解説を行うことをしない。鑑賞者が作品を観た時の感想を重視し、そこから想像されることなどをもとにして、グループで話し合いをしながらその対話を通して鑑賞が行われる。美術についての知識を介さずに作品を楽しむ体験を他人と共有することを通して、想像力や自分で考える力を育てること、自分の考えを話す力や他人の話を聴く力といったコミュニケーション能力を育てることを大きな目的にしている。作品の知識より、意識を持って観ること。人は実は観ているようで観ていないことにも気づく。
対話型鑑賞の方法
対話型鑑賞ではグループが一つの作品を前にして、ファシリテーターを中心にしてそれぞれの感想や自由な発想を話し、互いに聴きながら対話が進んでいく。それぞれの発見を得て、その発見をシェアする。作品を次々と巡っていく通常の鑑賞とは異なり、一点ずつの作品について自由な発想で深く掘り下げていくということが大きな特徴。作品が分からなくていい、ただし作品を見続け興味を持ち続け考え続けること。グループの人数は15人くらいまでが適当、多すぎても少なすぎても難しい。作品選びも重要で、単純なワンメッセージのものではなく複雑な思考が沸き上がるものを選ぼう。
ひとつの正解は存在しない
特に大人が対話型鑑賞に参加した場合、作品に答えを求める人が多い。何が目的なのかと考えてしまう。自分の思っていることを素直に口にすることも大人は勇気がいるが、ディスカッションすることが大事と思って勇気を出して発言しよう。忙しい僕たちはひとつのことに対して深く考える機会が少なくなっているようにも思う。時間を取って鑑賞すること、優雅な時間を体験することでもある。